って題名に書いておかないと自分でもわからなくなってきた爆笑。
これはそろそろお品書きというリンクをつくらねばいかんだろうか。
まぁそれはさておき。
続きをさかさかと参りましょうか。ほんとうは昨日あげたかったんだけど、途中で寝オチしました。
夕方に上がっていた雨は、夜になるにつれて再び雨模様の体を晒していた。このコンクリートジャングルにしとしとと降るそれはひどく無機的な音を演出する。ぴたんぽたんと雨どいを伝う雨水の音は何かを彷彿とさせるもので、サッチは招き入れられたマルコの部屋でタオルを借りて髪を拭きながらビールのプルトップを押し上げた。
マルコの部屋はこの間と違って簡素に片付けられていた。エースは小さなローテーブルに持ってきたお菓子やつまみの類を広げて、とても楽しそうにしている。店で客に接しているときは大抵くそまじめな顔をしていて滅多に笑顔なぞ見せないエースがである。
「で、なんだってさっきはあんなにびしょ濡れだったんだい」
ビール缶を片手にマルコは眉間にしわを寄せてサッチに尋ねる。するとサッチは肩を竦めながら今日は厄日だったの厄日、とにべもなく答えた。そこに割っている様にエースが雨の中で遊んでいたサッチを見つけたときの話しを事細かに至ってするものだからサッチとしては自分が黙っていても結局ばれるのだとあきらめていた。
「雨の中買い物袋もったままこう、両手を広げてさ」
身振り手振りで話すエースは、まるでマルコが初対面ではないかのようだ。マルコもそれに突っ込めばいいのに気付いた風なそぶりすら見せずに、いたって真面目にエースの話を聞いている。サッチはその話を右から左に聞き流しつつ耳を小指でぼりぼりと掃除しながら室内を見渡した。
間取りは完璧に一緒、家具を置く位置は違うとして、何かサッチを落ち着かなくさせるものがこの部屋にはある。一体なんだろう、と考えながらビール缶を口に運ぶ。ちょっと前にやらかしたあの事でなく、というかあの事はなんだか結局自分の勘違いだっただけみたいだし正直どうでもいい、何か、何かがひっかかるのだ。
「サッチ」
「なんだろうな…って、あん?」
「俺等の話、全く聞いてなかっただろ」
全く聞いてませんでしたよええ。完璧受け流してましたとも。どうせ二人から指差して笑われるのだと知っていたのだからそれくらいは勘弁してもらいたい。視線を二人からはずしながらサッチはすまねぇ完璧に聞き流してたわと謝る。
「うーわ、それ酷くないかサッチ」
「職業病なんだ、勘弁してくれ」
既に酔っているのか、目元を赤くしてにじり寄ってきたエースを凭れ掛かっていたベッドから身体を捻るようにして避けながら煙草を一本くわえ、それから思い出したようにマルコに灰皿あるかと聞いたサッチは当然の様に差し出されたそれに目を丸くした。今までどこに隠し持っていたのかというほどの準備の良さである。
「あんまり吸い過ぎるなよい」
マルコの苦笑した顔をみやって、お前、気転がききすぎだろと心中でつっこみながらそれを受け取り、キッチンの換気扇の下まで歩いていく。この季節にエアコンのかかっていないところで煙草を吸うのはひどく暑くて嫌だった。
っていうか俺のこと無視ですかコノヤローとエースの声が聞こえてきて、今度はちゃんと聞いてるよと返事をしながら火をつけた。無理矢理切られた前髪がぱらぱらと落ちてくるのを鬱陶しく掻きあげるが、結局それは眉にかかってきて邪魔なことには変わりなかった。
「そういやサッチって、髪の毛短いんだなぁ」
「ちょっと前に無理矢理ばっさりされたからなぁ」
「へぇ…俺さ、サッチはリーゼントってイメージなんだけどな」
唐突に言うエースにマルコが何時の時代の人間だよと笑っている。しかしサッチは実際高校の時に髪型くらい自由でいいじゃないかとリーゼントにしていた記憶がある。ご丁寧にブリーチして髪の色を抜いてまでやっていたあの時は随分若かったなと思う。煙草の煙を換気扇に向かって吐き出すようにしていると、ちらりと何かが視界に入った気がして目を瞬かせる。
何だろう。何かがひっかかった部分に眼を向ける。窓の外に見えるのは雨粒。それがこびりついた窓ガラス。その外に一瞬、暗く広がる海が見えた気がした。ええと、何だこれは。さっきベルメールに眼科へ行けと冗談交じりに言ったが、これでは自分が行かねばならないかもしれないと頭をぽりぽりと掻く。次いで振り返ってみるとそこはもう元の部屋である。
眼を軽く擦るが何もない。気のせいかと意識の端へと違和感を押しやってサッチは煙草を捻り消した。紫煙が小さく断末魔をあげるようにたゆって、換気扇へと吸い込まれていったのを見てからビールを口に含む。少し温くなっていた。
「そういえばディープブルーって映画知ってるか」
「知ってるよい。あの遺伝子が組みかえられた鮫の映画だろい」
「いやちげえよ」
サッチの部屋にあるんだけどさ、ほら、海の生き物の様子を撮った映画だよ。大きなシロナガスクジラが出てきてさ。俺さ、シロナガスクジラが大好きなんだよ、とエースはにこにこ笑いながら床に片手をついて離している。背中を丸めて胡坐をかいているマルコの顔はこちらからは見えないが、きっと真面目にそんなのあったかなと考えている顔なのだろう。
「持って来るか?」
「ん?」
「いや、ディープブルー」
いいの、とエースが眼を輝かせながら身を乗り出してくる。あぁそんなに乗り出すとお前手元のビールがこぼれるなどと考えつつ新しい煙草を咥えて見ていると、案の定こぼしたらしくマルコがおいおいとエースの額にデコピンをする音がした。こちらを振り返ってマルコが言う。
「すまねぇ、そこの雑巾とってくれよい」
「へいへい」
手近にあった雑巾を軽く水で絞ってから投げてやるとこちらを見もせずにそれを受け取ったマルコは、しかたねぇ奴だよいと言いながら床を拭いた。っていうか今の凄くないかと小さく感動しながらサッチは二人に、腹減ったろ、何か作れそうなもんないか探してくるからちょっと待ってろと言って、突っかけに足をつっこんだ。
「サッチの飯だ、やったね」
「お前は弟とやらに電話しなくていいのかよい」
「あ、忘れてた!」
そんな声が背後から聞こえてきた。何であいつらあんなに仲がよさそうなんだ、と変にもやもやとしたものが心中に浮かぶ。それも一過性の何かだろうと決め付けて、サッチは自分の部屋のボタンを叩くのだった。
[3回]
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