一度書いたものがきえちまった。これほどショックな事はそうそうないきがするけれど、意外と身近にあるもんです。はい。
ところで、毎回しのびの題名が百人一首なのは、がんばって思い出そうとしている努力の欠片です。中三の頃がんばって覚えたナァ…としみじみ。でもいま思い出そうとしたら「これやこの~」と「あまのはら~」と「ちはやぶる~」だけでした。えらいこっちゃ。たかさごの、…なんやったっけー?!
もう一度チャレンジ。食満が実はめちゃくちゃ凄腕だったら、というIF話。
任務は後味が悪くなるほど滞りなく進み、あとは学園へ帰るだけとなっていた。道なき道を進みながら三人のうちの一人が呟いた。愚痴っただけと言っても過言ではないが。
「今日もい組だけ実習だったなぁ」
「委員会は今日はナシだったし、丁度いいんじゃないの」
「あぁーつッかれた、早く帰っておばちゃんの飯が食いたいよ」
「さっさと帰ろう」
そこで黙っていた潮江がおまえらな、任務は学園を出てから学園に帰るまでが任務だと習わなかったのか、とまるでどこかの遠足へ行くかのような言葉を吐きながら周囲を警戒している。その生真面目さに残る二人は呆れたように肩を竦め、だってよぉと文句を言う。勿論、周囲には聞こえない闇語りを使用して、での抗議である。
「あー、でもよぉ」
「なんだ」
「こんなに何もおこらないと正直逆にこわいっつーかなんつーか」
「奇遇だな、俺もだ」
さて瑣末な言い合いはそろそろにして、いい加減動きますか、と彼らはまた行動を開始しようとした、その瞬間であった。透き通るような、まるで剥き身の刃をつきつけられたかのような殺気があたりに立ち込める。己等が見つかったのか、と警戒体勢に入るがそれは自分達に向けられたそれではない。
己の死を自覚させるほどの殺気に、三人は思わず戦慄し、脂汗をたらす。震える膝をむりやり動かしてその殺気から一刻も早く離れようと学園へむけて走り出した。
だが、その殺気の矛先はやはりこちらであったようで、空気が冷えていくのが分かる。焦りながら潮江は二人を先に行かせた。己は学園の機密情報を体に持つわけではない。万が一があってもあの二人なら学園まで行き着けるだろう。
潮江は迫り来る殺気へと向き直り、苦無を構えた。興奮しているわけでもないのに息があがる。この殺気は今まで感じてきたものとは段違いで、己等の鍛錬がまだまだ足りぬのかそれとも経験の差なのか、と歯噛みしながら四方八方を見渡す。
落ち着け、落ち着かなければ確実に死ぬ!
殺気はどんどん近づいてくる。くそっ
と。唐突にその殺気は掻き消えた。諦めたわけではあるまいに、何かあったのか。おそるおそる、警戒は解かずに来た道を戻り始める。状況を確認せねば、類は学園に及ぶ。まだ歳幼い下級生もいる学園には敵をいかせたくない。
ふと、血の臭いがした。樹上にあがり、その臭いを辿っていけば出所はすぐにしれた。木々が生える間に点々と散らばる人であったもの。しかもその忍装束は己等の行って来た城の者ではない。いったい何が起きたというのか。
とりあえず、己も学園へ帰還しようと決断し、その場を後にした。
学園では既に担任へ報告をすませた仲間が待ち受けていた。無事だったか、と笑顔を向けてくる二人に事情を話し、担任へ報告する。直ぐさま教師達が確認に出るかと思いきや、あぁ、あれは大丈夫だ、と暢気にごくろうだったなと告げてくる。あの暗殺者は身内なのであろうか。
「あーくっそびびったぁ」
「マジ疲れたぁ」
「お前等早く風呂に入るなりなんなりしろよ」
「だってよぉ」
などと管を巻く同期を放って潮江は一足先に風呂へと向う。あとでこの忍装束も洗濯するなり何なりせねばならないだろうと考えながら、今晩これからの予定をざっと脳裏に浮かべる。今日は委員会もないことだから明日の授業の予習をしてさっさと寝るかな。明日には委員の奴等を連れて鍛錬でもしに行くか。
風呂では同期やら五年が風呂に入って疲れた身体を癒していた。同じクラスの奴には「よぅ文次郎お疲れ」とか「今日も死傷者ゼロみたいだな」とか声を掛けられたが適当に生返事を返して身体を洗うべく湯を桶に張った。隣にろ組の七松が腰掛けてきた。泥だらけである辺り、今日は委員会でもして裏々山あたりまでいった様子である。
「文次郎にしては今日は遅かったな」
「まぁ、ちょっとな」
「なぁ、そういえば学園付近の森でやったらめったらすっごい殺気放ってた奴いなかったか?」
「あー…いた」
「あれ、プロだったらやばいからって一応うちのクラスで警戒してたんだけどさ、」
結局何にも出てこなかった、と七松は不服そうに口を尖らせる。
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