落乱44巻がまだこないよー
早くよみたす。よみたす。よみたす(大事な事なので三回言いました)
関係ないけれど、サムライ7が舞台化するみたいです。見に行きたいナァ新宿コマかぁ…遠いなぁ。
では、つづき。
ひたり、ひたりと足元から駆け上がるその戦慄はなんだ。この目の前の男は己の知っている同期の男ではないのか。ただひたすらに目の前の少年から発せられるその殺気に立花は目を見張る。警戒をするまでもなく己が死を予感する。どこかで誰かがそんな事を言っていたなと脳裏をかすめるが、今は一刻も早くこの目の前の男から逃げ出したかった。
「お前が黙っていてくれさえ居れば何も起きないし、起こされない」
ふとその殺気を解いて留三郎は笑む。体中を駆け巡っていた鳥肌と、背筋を流れた冷や汗がようやっと収まろうかというところでもあった。折角風呂に入ったところだったのに、とどこか冷静な自分が文句を垂れているが、外殻を保つ己はただ食満の言葉にわかった、と返事を返す事しか出来なかった。
「だが一つ聞いていいか」
「何なりと」
「いつからだ」
そのようなお使いを受けているのは、と言外に含ませて問う。すると意外なことに食満はあーともうーとも付かない言葉を発し、視線を天井に泳がせながら呟いた。
「ここ…二、三年か?」
「私に聞くな」
あはは、それもそうだと先ほどとは打って変わったようにのんびりとした笑い声と共に食満は歩き出した。口止めの約定を守らなければ…云々と脅しなど一切言わぬが、破られたら何も言わずに報復にでるのだろうか、と少し疑問に思う。
思わぬことを知ってしまった、と半ばげんなりしながら部屋に戻る。書物を読もうともう一度とりあげたが何も頭に入ってはこなかった。当然である。今まで己が学年で首位を走っていると思って、または其れを維持するべく多大な苦労をしてきたのが、こんなところでひっくり返されたのだから。思わず書物を膝に置いて呆けていると、音も無く湯飲みを持って帰って来た潮江に見咎められる。
「どうした、珍しいな」
「…そうか?」
「伊作に戦輪で負けたときのような面だ」
「…また懐かしい話を」
善法寺は常に不運が付きまとい何かしら実習でも失敗をする。だが、三年の戦輪の授業があったあの日に彼とどちらがうまく的に当てられるかを競った時にその差が歴然と示された。立花は当てるのが精一杯で、なのに善法寺は急所に全て命中していたのである。
その日一日は落ち込み、それから何度も投擲系の鍛錬を積んだ。それの成果なのか、現在は目標にどんな武器でも急所を外すことなく当てられるようにはなった。ただ、件の男には未だに負けているのである。善法寺の投擲物は目標と見当違いの方向に投げられるというのに、まるで何かに操られてでもいるかのように放物線を横に描いたような弧を辿り目標に到達する。そんな技は誰もできた事は無い。
「…で?今俺が茶を取りに行っている間になんかあったのか」
「いや、…別段気にするような事でもないさ」
さっさと寝るぞ阿呆。そういって立花は自分の布団にもぐりこんだ。
「伊作いるか」
居る事を前提として保健室の戸をあけてくるのはどの六年生でもお決まりの行動だが、食満の場合は善法寺でないと困る事情があることをこの男は知っている。その事情の内容も知っている。伊達に六年同じ部屋で過ごしては居ない。
善法寺から見て、食満はまさに爪を隠す鷹だった。その気になればあの立花や潮江すら遥かにしのぐ力を持っているのに、やる気の無さでのらりくらりと中の中あたりを適当に彷徨う成績ばかり。だが教師達は彼の本質を知っていたのか、あえて口を出さずにいたのだ。
「いるよぉ、どうしたの留さん」
「すまん銃弾が掠ったんでな、火薬が皮膚に入りやがった」
「えぇっ、とりあえず止血するから」
「すまん」
よっこいせ、と腰を下ろしてついでに善法寺の飲んでいたと思われる湯飲みを掠め取って茶を啜る。やっぱ与四朗に持って来て貰ったそば茶はうめぇなぁ、とのほほんとしている食満に呆れながら善法寺はちょっと、それ僕のお茶なんだけどと言う。だがその手は皮膚を切開する手を止めない。血がぽたぽたと流れ、それを木綿の晒で止血していく。
「今日は何かあったの」
「?」
「何か殺気が消えて無いよ」
「あらら」
きっとさっきのだろうなぁ…ともにょもにょと言う食満に善法寺は目を眇めて問う。誰かに殺気をふっかけたの?返答はまさにはいそうですすんません。
「誰に」
「仙蔵」
「ばれたも同然だね」
「まぁ、しゃーないさ」
「だねぇ」
じゃあそろそろ僕等も寝に帰る?と問われて食満はそうだな、と笑いながら後をついて保健室から出て行った。後に残るのは座布団と湯のみ。
今日も平和な朝を迎える。
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