このブログはメモとして活用しているわけですが。
ちゃんとした文章を乗っけれてなくてもうしわけないかぎりでござる。
原稿の締め切り明日の午後5時だっつのになにしてるんでしょうね私。
あと5ページほどでグレー塗り終わるので、移して、写植して、振り込んで、FAX!
今日はリポDがお友達な予感です。ええ、がんばろう
というわけで現代パロディ続きどぞー
一人で少し離れたところにある図書館に行った。その日はエースは弟を連れて海に遊びに行くんだ、と嬉々としてバイト上がりに話していたのでお一人様である。サッチ個人としてはお一人様であることは特に問題ないのだが、エースは度々サッチについていきたがるのでその日に出かけることは黙っていた。
いつも行っている場所でなく、初めて来たところだから何か勝手が違う。それは仕方ないことだ。だが、初めての場所というのはサッチはいつもワクワクするので好きだった。だから若いときによく地図も持たずに電車に乗ってあちこちに行ったし、会社に勤めて金を溜めてから自主退社して世界をまわったこともあった。
世界をまわっているとき、いつも海を見ていたような気がする。どの国へ行ってもまず、海岸線の道を歩いて海を眺めるのが癖だった。地元の人達はサッチに話しかけるときいつも言ったものだ。そんなに海ばっかり見て、海の向うに何か忘れ物でもしてきたのかい、と。
当然忘れ物なんて何もないし、大切なのは故郷に残してきた家族とか、そういったありふれたものだったからサッチは笑って、海がすきなんだよ多分と答えていた。
結局世界を見ても、何かに対する飢えは満たされることもなく。見つけることすらできずにサッチはこの海沿いの町に住み着いた。太平洋に近いこの場所ならば、いつでも海を見に行く事ができたから。
そして今、料理のレシピを探しに来たはずなのに、結局頬杖をつきながらぺらぺらと見ているのは海の写真集だったりする。窓の外には待ちの風景と、遠くに海の水平線が見える。こんなところまできてまたこういう系を見ている自分に思わず自嘲した。
「海がお好きなのかしら?」
ふとかかった声に視線を写真集から上げると、長い髪の美しい鼻筋の通った壮年の女性がこちらを見て微笑んでいた。壮年といっても、サッチより10も離れていなさそうな女性は、写真集を見やってからもう一度サッチに視線を戻してにこりと笑う。美しい歳の重ね方をしているな、と思った。
「海。懐かしいわね」
あの頃の私達は、ただ世界を駆け巡ることが存在意義だった。女性はただ静かに微笑みながらそんな言葉を投げかけてくる。一体この女性は何者なんだろうかと、ぼんやりと思考の隅で疑問に感じながら、しかし静かな微笑みから目をそらすことができなかった。
すると女性はあら、と微かに目を見開いて口元に手をあてながらころころと笑った。一体どうしたのかと周囲に視線をめぐらせるがあいにくそのコーナーの机には彼女とサッチしかいない。窓から一陣の風が吹き込んでくる。それが彼女の手元にある本のページをぱらぱらと捲っていく。
「貴方はまだ、見つけていないのね」
大切なものを。初めて会った人物なのに、図星をつかれた気がして胸が苦しくなる。女性はくすくすと笑って本を閉じ、席を立つ。本の表紙にはこうかかれていた。「海の歴史」。
「初めて会ったのにこんなことを言うのはあれなのだけど、」
女性は微笑をたやさない。
「あれに囚われることが幸せとは限らない」
今の生を大切に。そう言い残して彼女はサッチのいたコーナーから離れていってしまった。呼吸器が苦しくなって初めて、自分が息を止めていたことを思い出したサッチは、頬をぽりぽりと掻きながら小さく嘆息する。
「・・・一体、なんだってんだ」
だいたい、あれって何だよ。というより一番の問題は、彼女がどうみても自分を“見知った存在”として扱ったことである。女性を品定めするのが好きなサッチは、あれほどの美人がいたらどうあっても絶対忘れないだろうしまず話しかけるであろう。だが記憶のどこを探っても彼女の顔はでてこなかったし、名前も勿論浮かぶはずも無かった。
「……ほんと、なんだってんだ」
さわさわと外からの風が頬をなでていく。とりあえず気になったから彼女の持っていた本を探す。確か海の歴史と表紙に書いてあったと記憶する。手に取った本の著者はクローバーと書かれていた。中身をぱらぱらとめくる。普通の、地球誕生から海の発生、海における生物の発生から現代までを書いてあるようにみえる。
ふとあとがきの最後の行に目が釘付けになった。そこには一文でこうつづられていた。
私はこの本を書くことで、遠くはるか、自由なあの海の時代に生きた者達と心を通わせる事を期待する、と。
[3回]
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