葉巻というものは、そのどちらか先端をカットしなければ火を点しても吸えない。
なので、お気に入りの葉巻の箱の側にはいつも、お気に入りの、上品な
細工でできたカッターを置いている。
それの姿が見当たらない事に、クロコダイルはすぐに気がついた。
この部屋に出入りするのは自分とロビン、それに支配人だけのはずである。
いらいらと米神に青筋をたてながら男はカッターを探した。上品な調度の
揃うこのレインディナーズの経営者室内には、物を置き忘れるということが
ないようにいつも綺麗に片付けられているのだが。
「…ねぇな」
「お探し物はこれかぁ?フフフフッ!」
「…」
一人しかいないところにかけられるはずの無い声を聞いて、ゆっくりと振り
返れば。そこには室内の調度の色合いからはアホほどかけ離れた、どぎ
ついピンクの毛玉がいる。正確には毛玉からにょきにょきと二本の足がは
えていて、頂点にはオレンジ色のサングラスがかかった黄色い頭がのっか
っている毛玉である。
「…なんでここにいる」
「ご挨拶だなぁ!フフフフフフッ!」
ソファに片膝をたてて、お世辞にも上品とは言えない態度と格好で、桃色の
毛玉は笑う。あぁ嫌なものを見た。しかも声をかけちまった俺は馬鹿か余計
に面倒が増えるあぁ面倒くさいと頭の中で後悔が渦をまくが、そんなことを
億尾にも出さない辺りさすが王下七武海といったところか。
毛玉は右手にもったシガレットカッターを弄びながら、無駄に耳に残る笑い声
を上げ続ける。その様が癪にさわってしかたがないが、なんせ相手は元史上
最高額の大物である。下手に争えばこちらとて無傷ではいかないだろう。
あほらしくなってカッターをとりもどそうともせずに、葉巻の先を砂の刃で叩き
切り、マッチで火を点した。
「あ」
すると小さく声をあげた毛玉が、吊り上げていた口角をちょっと下ろして至極
残念そうに溜息をつく。なんだ貴様、まさかこちらがそれを返せとこっちに向っ
てくるとでも思っていたのか。あほか。
付き合いきれない。
うんざりと肩を竦めて、つとめていらない事を言わないようにしながらクロコダ
イルは毛玉に向き直った。
「それで、何のようだ」
「用もなくきちゃ駄目ってか?つれねぇなぁ」
つれないもなにも、ピンクの丸い子供の玩具でありそうな物体と、そんなに仲
良くしたつもりはない。っていうか記憶もない。だいたい何故態々こんな砂漠の
ど真ん中まで来るのか、意味や意義すらわからない。わかりたくもないという
のが本音だが。
「これから仕事だ。構ってやる暇などあるわけがないだろう」
「おーおー、青筋立てちゃってこーわいこわい」
青筋も眉間の皺ももとから癖だ。堪忍袋の尾も短い事は自分だって承知して
いるのだから今更言われた所で屁でもなんでもないわクソがと心の中で唾を
吐く。だいたいもうここに来るのは何度目だ。ふっふふっふと五月蝿いわこの
クソミンゴ。
「さっさと失せろ」
「こーわいこわい。俺は客だぜ?オモテナシとかないのかよ」
毛玉はでかい図体を器用にソファの上で三角すわりをさせてこちらをにやにや
と見つめてくる。サングラスの下の目が見えないというのに、視線がちくちく刺さ
って首筋が痒い。あぁもう。
「支配人にさせる。お前はうせろ」
とっとと失せろと何度言った事か。何度それを笑ってうけながされたことか。
あぁもう。これからバロックワークスの方の指示を出したいと思っていた所なの
に気力もなにも吸い取っていかれそうで、げんなりとする。心が折れそうだ。
オチがゆくえ不明だよどうしよう
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