絶望なんかすんな
新世界の広いようで狭い海を、白ひげ海賊団の船であるモビーディックは進む。空はうんざりするほど青い様子を見せているがここは偉大なる航路、いつ何時何が起こるかしれない。晴れていたかと思えば雹が振り、雨が降っていたかと思ったら次の瞬間トルネードが起きる。大津波も起これば雪もふる。まさに混乱とお友達になった状態である。航海士を筆頭に船員皆が慌しく動き回るの常だ。
やっと海流のうねりが収まったかと思えば次は白ひげの名を意に介そうともしない小物達が戦争を仕掛けてくる。こちとら白ひげの戦闘員をやっている身だ、負ける気はまずしない。むしろ、どの隊が相手をするかと取り合いになるのだ。最終的には平和的にじゃんけんで決めているが、下見の場合はわざわざ隊長16人が全員で大富豪をして決める。一番に残った大貧民が下見にいくはめになるのだ。
「っしゃ、あがりぃ!」
嬉しそうにカードを置いたのはラクヨウで、それを見ていたエースがあーーーっ、と悔しそうに声を上げた。エースは持ち手が一枚で、横から覗くとどうやらそれはスペードの3らしい。なんでそんなもん最後に残しといたんだ。当然マルコやサッチ、イゾウあたりはスマートに上から3つの順位を占めていて、そんなエースをにたにたと見やっている。
「んじゃ、先触れをよろしく頼むよい」
煙草を咥えて笑いながらマルコが言うと、イゾウがその後を次ぐ。お前はいつもすぐ喧嘩に持ち込むからな、気をつけるがいい。ブレンハイムをみてみろ、あんなでっかい身体をして小さなカードを必死に操ったんだぞ、と指差す先にはどういった顔をすればいいのか困っている男。褒めているのかけなしているのかさっぱりである。
あれよあれよというまにエースの隊員が小船を用意して乗り込んでいく。まぁ小船と言ってもモビーからしたら小さいという程度のキャラベルであるが。ちぇーとグチを言っていたエースは渋々乗り込んで、見送りというかただ面白がっているだけに違いないサッチにむけて親指を下に差した。
「はいはい遠吠えはいいから早くいってこいエース」
「覚えてろよサッチー!!」
船はするするとモビーより先に立って離れていく。それを見やりながらサッチは煙草をふかしていたが、お前もさっさと仕事に戻れあほうとマルコに小突かれて引っ立てられていった。船は大きな体をゆすり、のしのしと海を掻き分ける。
「って、この先の島ってさ」
ふと思い当たるようにサッチが呟いた。その口元に咥えられていた煙草を抜き取って吸い込みながらマルコが頷く。もともと海賊王が立ち寄った場所だ、と。
「何か、面倒な事にならなきゃいいが」
「その時はそのときだよい」
っていうか煙草返してくださる、一番隊隊長さん、とサッチがマルコの口元に手を伸ばしてきたので素直に取らせてやった。互いに慣れっこになっているがエースがこれを見るとよく、お前等はずかしくねぇのと言って顔を赤らめている。まだまだ青いなお前もと笑う二人はもう、腐れ縁どころではないほど互いを知っている。
だから背中を預けられるのだが。
「さぁて、どうなることやら」
サッチは楽しそうに厨房へと歩いていった。
案外早く二番隊は帰ってきた。皆暴れる要因が何もなかったと文句を言いながら帰ってきたが、一人だけ何も言わずにモビーに乗船してきたエースにサッチが肩を組む。
「さて、ロジャーを崇拝していた島はどうだった」
「?!」
「なんで知ってるって顔だな」
俺たちはてめぇのアニキだぜ?とサッチは笑う。マルコも気付いているのか遠くからじっとこちらを見つめていた。テンガロンをぐっとさげて、サッチの腕を払いのけてエースは白ひげの部屋へ赴く。その背中は心なしか小さかった。
「あーらら、よっぽどショックだったかしら」
「あいつにとって、ロジャーのことは汚点なんだろうさ」
傷に塩塗りこむようなことしたのかよい、とマルコは呆れたような面をしてサッチをみやる。ジョズも心なしか心配そうだ。困ったように肩を竦めてアイツの中の問題だからな、どうみても逃げ回ってるようにしかみえねぇもんだからちょっと突いてやっただけだ。
「アホ」
「アホですよ、知ってますよ」
まぁ、どうせオヤジが説得するだろうさ。俺たちは後で頭でもなでてやろうぜ。サッチはそういって笑った。
[2回]
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