煙草はお気に入りであるアメリカンスピリッツ。ジッポには自分が好きな鳥の羽模様が彫り込んである。
灰皿には既に山のように吸い殻が積もっている。朝起きてまず行う事がアメスピを吸うというのは決して褒められたものでないことを知っているが、もはやそれがないと頭がすっきりしないのもまた事実であった。
なかなかストレスの溜まる仕事だと覚悟して今の会社に入社したのは遠い昔の話だ。
気が付けば自分は部長の様な、ちょっとした管理職である。何がどうしてこうなったんだっけなぁ、と煙草を吹かしながら視線を泳がせているところに背中へ一発ばしこーんと衝撃が入った。振り返れば伸びているのは健康そうな腕。
「…んだよい」
「オハヨウ」
布団からにしゃ、と若い笑顔がこぼれ落ちる。親子程年齢が離れているこの二人がこうやって一緒に居ることは、何も珍しいことではない。
たまたまマルコの家がでかくて、そこへ家賃が払えなくなったと後輩のエースが弟をつれて転がり込んできたのが始まりだ。
なんで払えてないのだと突っ込むと、至極申し訳なさそうな、悪戯がばれた子供みたいな顔をしてエースは答えたものだ。
「賭け麻雀ですっちゃって…」
アホといいながら二人をうけいれた自分もお人よしだろう。
伸びてきていた手を払いのけてマルコは布団を引っぺがす。エースの腰にはがっしりと弟と、昨夜酒を片手に遊びに来たサッチがくっついている。
サッチを足で蹴り飛ばして、エースに弟を起こすよう言い付けた。
今日は土曜日。明日も休みかと思うとこの一週間で疲れた身体をゆっくり休めたいのが本音だがそういうわけにもいかない。
部屋中に敷き詰められた布団をまだ眠っているサッチを蹴りだしながらまとめると、布団後で干しておけよと言って寝室もとい座敷をでた。
キッチンに向かうと後からばたばたとついて来たエースが手伝うよと言いながら冷蔵庫を開けようとする。
その後ろ頭を興味深そうにみやって、じゃあお前はとりあえずサラダとスクランブルエッグな、と言うと、返ってきた笑顔がまだ若々しい。
[2回]
PR