燃えている。
夜空を焦がすように燃え上がる炎は、轟々と音を立ててその手を天へ伸ばす。酸素を求めて舞い上がる炎のダンスは、火は生き物だという人間の言をまさに、体現するかのように。
笑っている。
男が一人、その燃え上がる街を背に、高々と笑い声を上げている。その男はまるで、その街を今、立ち寄って一通り楽しんだついでに潰してきましたとでも言いたげに。
狂っている。
轟々と火の粉があがる。ぱちぱちと燃える。建材が火に舐められつくして崩落し、倒壊の一途をたどる。人々は逃げ惑い、困惑と狂乱と悲しみの叫び声をあげる。一体何が起きたのかわからずに目をぱちくりと、ただ呆然と立ちすくむ少女、ここぞとばかりに火の勢いがまだ弱いうちに逃げた家族の住家へ入って金目の物を盗み出す輩、転んだ子供を早く立ちなさいと悲鳴をあげる母親、長年の苦労の末に立てた我が家を一瞬で失い絶叫する老人。
全てが、全てを灰にするべく、燃え上がる。
「街ひとつ消せば、それが正義なのだろう?」
「政府と俺たちを一緒にするな」
ピンク色羽毛でできたコートをまとい、両手を広げて朱色と黒色の混じる空を見上げて、高らかに笑い声をあげる。ここの街の人間は幸いだ。戦争をしらなかった平和ぼけ共は今、平和なんぞ一瞬で崩れるということを学んだ。この島は今、戦争というものを知ったんだ!
男が言う事の内容は、知りたくもない。判りたくも、ない。
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