壁にかけてあるそれは、あの人がいつかに探してやまなかったもの。
その隣においてあるのはあの人が最後まで手放そうとしなかった時計。
その下にいつのは、あの人が最後に自分を見捨てるようにと命令した犬。
私はそれらを見て暮らしている。もう、何年の月日がすぎたことだろう。
ガウはカイエンと各地を放浪しながら人としてこの世界に交じれるように
教育されながら暮らしているという。来る毎に人らしくなるガウをみて、
自分も随分とあれから生きているのだな、と感じている。
アウザーに一度ならず食事会に連れ出された。そこには見知った顔の貴族達がちらほらと
いて、こちらをみつけるやいなや自分が私と仲が良い事を自慢するべくこちらによってくる。
それに辟易しながら応対するのが自分の常で、本音を言って人を驚かせ、それを取り繕う
のが面倒になってしまっていた。
いつしかあの人と同じく無口になってしまった自分をみてギャンブラーや盗賊が笑う。
アイツと同じように育っちゃってマァ。
数年前にあの人の近くへといってしまった祖父も溜息混じりに言っていたものだ。
なんでこうもあやつに似てしもうたんじゃいおまえは…
あの人の娘であることに、後悔なぞ、苦しみなぞ、あろうはずもないのだ。
ただ、父が近くにいた。それが彼女の今をつくっているのである。
刃と、時計のとなりには小さな額が飾ってある。
いつかあの飛空挺で鉛筆を片手にみんなを描いたときに隅っこに小さくかいたそれは、
ラクガキなのにとてもリアルだった。
鉛筆をねかせてぐりぐりと書きなぐったうえに小さく書いてある。
Shadow
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