それは全く意識しての事ではなく、本人に言わせれば俺そんなことしてたっけまじでうわだっせぇといわせるような行動であったのだが、周囲から見ればあー…といわせるには十分なものだった。
例えば仕事の関係で島々を巡るとき、島のアクセサリーショップでふと見かけた指輪やらカフスボタンを見て、あいつに似合いそう、とか唐突に思ってしまったり、買った女にせがまれてブランド系のファッションを見ていてふと目に付いたコートを、あー、好きそうだなーとつい手にとってしまったりする。
あまつさえ、子供用のおもちゃ屋の前を通りかかった時に、螺子を捻ってとことこうごく鰐のオモチャをみつけて思わず立ち止まってそれに食い入るように見つめたりするのだ。本人としてはまったくもって無意識な行動であったそれは、ついに遊びにいったアラバスタでも本領を発揮することになる。
「…何みてんだ」
「んー…、え?」
眉間に皺を寄せたまま葉巻を銜えている男は目下仕事に忙殺されているのだが、それをじーっと見つめている自分の行動にすら気がつかず、指摘されて始めて、え、そうなの?みたいな顔で自分の体を見下ろしたりしていた。なんだ、もしかして、え、何、俺ずっと鰐野朗の面みてた?
ちょっと前までならば、本当に玩具で遊ぶという感覚でしかなかったというのに、それこそ相手の顔を無意識にじっとみつめるなぞしなかったろう。見つめるとならば必ず相手を怒らせるという事、例えばその金の瞳が動く先にわざわざ移動してみせたり、仕事を延々つづける腕を捻り上げたり、執務室にやってくる部下を操ってめちゃくちゃにしてやったり、ということを考えながら楽しそうにしていたはずだ。
自分がいったいどうしてこうなったんだと、思わず頭を抱えたくなる衝動がつきあげるが、そこはいい年をこいた手前、さすがに堪えられる。若い頃なら容赦なく頭を掻き毟って爪を噛むくらいはしていただろう。一体なんだったんだ。
やっとクロコダイルが仕事に目処をつけて、その隙を見逃さずにとりあえずメシいこうぜ飯、と声をかけたはいいものの。そんな声をかけるなんぞついぞしたことのなかった自分に今更気がついて、またやってるよ馬鹿じゃないの俺とか思ってみたりする。だが相手はそれに訝しがらずに素直に、じゃあ近くにあるトコでも行くかなどと言ってくるもんだから尚更自分としては罰が悪い。
おっかしいなおかしいな。ハテナマークが頭で運動会をし始めた頃、気がつけば近くの高級レストランでテーブルを挟んで二人向かい合っている。律儀に姿勢を正して座っている自分が気持ち悪くて、思わず姿勢を崩した。
「……」
いったいこの男はどうしちまったってんだ。料理が運ばれてきて、その運んできた給仕が奴の好みの美女だったにも関わらず、なぁ今晩一発どうよとか言葉の欠片すら発さない。それどころか今メインが運ばれてきたのだが、まさかの姿勢正しく大人しく食事を摂っているのだ。一体なにがあったのか聞きたくない。聞いたら何かが終わってしまう気がするので正直その話題は避けたい。だが膨れ上がる好奇心に打ち勝つには、それ相当の努力が必要だった。必然的に葉巻の吹かすペースも速くなる。
っていうかほんとに長いことこのピンクの毛玉とよくもつきあってこれたな自分と内心で喝采をしながら、改めて相手をしげしげと睥睨する。海軍本部でこの馬鹿とであってからというもの、本当に自分では認めたくないが玩具のようにして怒らせられては喜ばれるという事を何度も繰り返してきた。
ただでさえ堪忍袋の尾なんて小指の先ほどにしかない自分を、幾度となく、それはさまざまな方法で怒らせてきたこのドフラミンゴだが、最近の行動がどうにもおかしいのである。カジノの上に乗っている鰐をぼーっとみあげていたり、何かに気を取られているなと思ったらカジノの従業員の制服のマークが鰐であるのをジッと見ていたり、このあいだなんぞ何かもってきたと思ったらスカーフのプレゼント。しかも自分が好みそうなシンプルでありがなら高級なそれ。
こんなにこいつに気を使われたのは生まれて初めてじゃなかろうか。背筋が寒くなるが、まぁ何か悩みがあるんだったらそれなりに自分で解決するんだろう。などと考えて、まてまてまて何で俺がこいつの心配なんぞせにゃならんのだ何時も迷惑をかけてくるのはこいつの方だろう、と自分に突っ込みをいれながら、それでも食事の手は止めない。
「…あー。」
「んだよ」
「うん、俺、お前のこと好きだわ」
がしゃあああんと音を立ててナイフとフォークが落ちた。
[1回]
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