それは何の変哲もない日だった。
朝目が覚め、専属のコックの手による朝食を摂り、葉巻を銜え、
ブラックのコーヒーを飲みながら新聞を読み、国のどの辺りに
どのような安っぽい海賊がいるかを調べ、自分の中のスケジュ
ールと照らし合わせて暇が有るならまぁ赴くとするかと重い腰を
よっこらせとあげる。
あぁ助かった、ありがとうございますなどと聞きなれた陳腐な謝
礼を聞き流してバナナワニに乗り込んで、さて今度は今来た道
を引き返しがてらスパイダーズカフェとビリオンズに指令でもだ
しておくか、と考えていた。
ふと、砂漠を疾走するワニから見える景色を見つめながら考え
た。なんと面白みのない毎日。目的に向っているとはいえ、プル
トンを目の前にするときまでこの生活は変わらないのだろう。
それまで辛抱すればいいだけの話だが、残念ながらクロコダイ
ルはあまりに長い時間それを待つだけの気の長さを持ち合わせ
ていない。
「消えろ、消えろ、つかの間の灯火…」
「人生は歩いている影にすぎぬ、ってか。随分とセンチなこった
な、ワニ野朗」
毎度お馴染みのアホの声が聞こえる。何故聞こえるかなど最早
愚問にすぎない。自分とて経営者であろうあのアホは、どこから
そんな時間を見つけてくるのか知らないが、いちいち楽しそうに
こんな辺鄙な場所まで船を操って遊びに来る。
「…随分と暇ならしいな、鳥野朗」
「フフフフ!ずいぶんとご機嫌なようだなぁ?」
ご機嫌なわけではない。ただ、毎度毎度青筋を立てるのに飽きが
きただけの事。ばかばかしいことだ。もう何年この鳥野朗に絡まれ
続けているのやら。
我ながら今までこうやって我慢をし続けてきた事に小さく賞賛を送
りたい、とクロコダイルは内心思っていた。そんな様子を、少し口角
を下げて見ていた鳥野朗ことドフラミンゴはつまらなさそうに鼻を鳴
らした。
「で?」
「…?」
「んな劇作家の名言なんぞ呟いて一体どうしちまったのかなぁ?フ
フフフ!」
正直このドフラミンゴが、その言葉の発生主の事を知っているとは
思わず、内心舌を巻きながら隣に行儀悪く座っていたピンクのでか
いふわふわを眇める。
その視線に気がついたのか、窓の外をにたにたと笑いながら見て
いた男がふとこちらに顔を捻る。視線がかち合った、のかどうかは
わからない。相手の視線の行く先などサングラス越しなのにわかる
はずがないのだから。
「…なんだよ」
「…別に」
あっそ、と返してドフラミンゴは徐にクロコダイルの頭を鷲掴んだ。
セットした頭が崩れる、と小さく青筋をたてながら睨むと、相手は大
きく口を開いて座っていた座席に膝を立てついでにクロコダイルに
覆いかぶさりながら言った。
「そんなつまんねぇことを言ってるサー・クロコダイルが、俺を睨む
権利でもあんのか?ん?」
「…黙れ」
「何か言いたげだなぁ」
「…失せろ殺すぞ」
肩をいからせ見上げた視線を見返す視線。顔が触れるほど近づい
た故にようやっと見えたその瞳の鋭さに、男は内心震える程の楽し
さを覚えたのだった。
オチがまたしてもゆくえふめry
[1回]
PR