夜の海。白い大きな舳先に立つ後姿。赤い炎がちりちりと空に消えていく。あれは送り火だ、と誰かが言ったのを覚えている。あの青年は毎年自分の誕生日である年始には必ず一人でそれを行うという。能力を得る前は焚き火で、今は自らの炎で、自らを生んでくれた人の死を悼んでいるのだ、と。(ついった)
「どーしてサッチが飯作ってんの?」キッチンで一人楽しく腕を振るう姿に首を傾げる。「あー、お前は知らないんだっけか」「?だって今日はサッチの日なんだろ?」「そうだよい」読み終わった新聞を畳んでマルコが苦笑する。言い出したら聞かねぇからな。「祝われる側が料理するの?」
「祝われるから、だそうだ」勝手に取ってきた、薄いコーヒーを一つエースに渡し、もう片方は自分の口に運びながら笑う。「皆は自分の生まれた日を祝ってくれる。自分はそのお返しに料理を振る舞う」これが毎度毎度の、奴の日だい。そう言った目は細められていた。 (ついった)
「やいてめぇ、今でこそこんな生温い牢獄で日に三度も飯が食えるんだ、すっかり怠けきっちまった世の中に感謝こそすれ恨み節たぁ、筋違いなんじゃねぇのかい。おれがまだ若ぇ時分なんざ、この海を縦横無尽に走れる奴が、一番孤独な奴が王者たらしめたんでぃ。親父が欲しかったなぁ、そんなちんけなもんじゃあねんだい。おれ達みてぇなろくでなしでも船にのせたんなら息子だと、あの糞でけぇ掌でなでてくれたんでぃ。いいかろくでなし。てめぇみてぇなおつむの小せぇ奴にも分かる様に言ってやらぁ、耳かっぽじってよぉっく聞きやがれぃ。おめぇの凌ぎがどういうもんか、得と教えてやらぁ。」 (ついった)
「とっつぁん、今日は何の話を聞かせてくれるんだい」「そうさなぁ、おれがまだ海の上で親父の代紋しょって暴れ呆けていた時代の事でもよかろうが、てめぇに話すにゃあ惜しいようなのを一つ話してやらぁ。あれはおれがまだ隊長になってすぐの出来事だった…。世の中ぁロジャーが切りやがった一世一代の大見栄のおかげで、海だ宝だ海賊だと、上への下への大騒ぎの真っ只中。場所は新世界、親父の白鯨は堂々と雪荒ぶ冬島付近を航行していたと思いねぃ。おれと年の近ぇ奴なんざ船にゃごろごろいたが、あれほど馬鹿やった野郎はあいつ以外におるめぇよ。(ついった)
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