前にかいた奴のもと。
携帯でぽちぽち打っていた奴をのっけてみる。
12月20日 ちょっとつけたし。
1月13日 修正。なんだあのくだりは。
その瞳は、感情をかなぐり捨てようとする必死さがあった。その視線の真っ直ぐな少年に、
こちらも答えねばならないだろう。
カタカタとシャッターが捲れ上がる音。その向こう側から姿をみせた青い機体を見出して、
男は微かに微笑んだ。哀れにすら見える必死な表情に、思わず溜息を吐きながら機体ナンバー
0014は、よっ、と声をあげ、座っていた場所から飛び降りた。
「やっと来たか…一ヶ月ぶり、か?」
「…君を倒しに来たんだ」
「知ってるさ」
だからそんなに睨むなよ、と嗤いながら男は肩を竦める。依然として顔を崩そうともしない少年
に苦笑しながらその場に立ち止まる。さて、俺達はこうして戦わなきゃならなくなったわけだが。
「正直、戦うのは面倒くさくってなぁ」
至極楽しそうに言った。訝しむ少年を尻目に、ふとハラの中で考える。命のやり取りをするって
ぇ時に、何を考えてるんだか。本気で戦うってなら俺はあの時の俺ではなくなるんだぞ。
「でも、折角優しいロックが情に流されずに此処まで来たんだ。やっぱ戦わねぇと、なぁ?」
「……」
バスターを構えながら必死に無表情を装う少年。
その顔を見て、鮮明なる記憶をメモリから引っ張り出していた。
一月ほど前、バブルの買い物につきあわされて人型擬体で街にでた時のことだった。
「なぁ…まだあんの?ってか金大丈夫なのおまえ」
「大丈夫だよ、ちゃんと限度は守ってるし、」
一応エアーからも必要なものだけ買うって約束させられたしねぇ、とバブルは柔らかく笑う。
バブルは博士の駄洒落なのか、金の使い方が荒い。よく買い物をしすぎてエアーに注意され
ているのを見かける。今日はさすがに博士の食べ物を調達するだけなのでまぁ荷物もちは自
分だけでいいかと思っていたのだ…が…。
「それにしてもこの量は多すぎだろ」
「そうかなぁ?」
優に超えているどころの量ではない。既に両手と両腕はふさがりかけてるも同じだ。やはり
クイックあたりもつれてこればよかった、と半ばげっそりしてフラッシュは荷物を抱え直す。そ
れにしても、と辺りを見回しながらバブルが呟く。
「僕達がこうやって人の中に紛れてるっていうのに、皆ほんとにのんきなもんだよね」
「…当事者しかそういった事に敏感じゃないからな」
人って不思議だよねぇ。にこにこと笑うバブルの笑顔はどこか表情とは裏腹な冷たさをもっ
ていた。ひやりとしながらバブルに提案する。クイックに車もってきてもらおうぜ。俺これ以上
持てんわ。
「あー、わかった」
バブルは腰からケータイを取り出して(とはいっても玩具の、電話なぞかかるはずもないの
だが)電話をかける振りをしながらクイックに通信をする。フラッシュがさっさと通信してしまえ
ばよかったのだが、どうもあいつに助けを求めるようで気に食わなかったのだ。
「あ、もしもしクイック?車持ってきてよ。荷物がいっぱいで重たくってさ」
―はぁ?お前、またいっぱい買い物しちゃったの?―
「やかましいよ。持ってきてくれるの?くれないの?」
―わぁったよ、行けばいいんだろ行けば。で、どこよ―
「えーっとね、セントラルスクウェアの…」
ちなみに彼らの拠点はアメリカにあったりする。
十五分もしないうちに、ちょっとそれ俺ら隠れてるはずなのにそれどうよ、と言いたくなる赤い
ど派手なスポーツカーが彼らの前に止まる。いつものことだが派手な排気音もついているので
どうしようもない。
「お前よ、いい加減その排気音とか色とかどうにかんねーの」
「あぁ?俺はレーサーだぞ?」
これくらいは当たり前だろうが!と胸をはるクイックを放ってバブルはさっさと荷物を積み込み
始めていて、フラッシュ、早く荷物かしてー、とのんきに声をあげている。
「ほれよ。…そういやこの車、二人しか乗れねぇよな?」
「あーまぁお前トランクにでも乗れば?」
「ぶっころすぞてめぇ…いーよ。ちょっと散歩して帰る」
なんだぁ?ハゲのくせに黄昏でもすんのか。とにやにや笑う男を睨みつけて、さっさと歩き出
す。「乗ってかねーのまじで」という声に手をひらひら振ってそのまま歩いて人ごみに紛れ込ん
でいった。
人間のもちうる情報はなるたけ集めておきたい。それが情報関連の攻撃を主とするフラッシュ
の信念だが、どうも全てが情報化しすぎている世の中、アナログに癒しをもとめる癖があった。
メトロポリタン美術館のドガの踊り子をみて、やっぱ女は巨乳にかぎるよなぁ…と一人ごちなが
ら静かな空間の中を出口へと適当に見流していく。ミュージアムショップでさっき見た少女の像
を土産に買っている日本人らしき夫婦の姿を横目に出口を通り過ぎ、近くの公園へスタスタと歩
いていく。
とちゅう、バブルが買ったいかにもピザ系外国人の好みそうな脂肪のたっぷりの食べ物を売る
デリなどが並ぶ場所にでた。そのなかでまだ博士の身体に余計なものをつけなさそうなシシカバ
ブのサンドを買ってから、そういえばバブルの奴、博士の好き嫌いを考えてなかったんじゃねぇ
か?と思いついてもう2、3、買い物をし、紙袋をよっこらせと左手に抱え込んだ。
あぁついでだからこの公園で遊んでいる人間を観察していくか。と脚を踏み出した時だった。
「そこの金髪のお兄さん、危ない!!」
「あん?」
まさか自分の事とは思うはずもなく。(なぜなら周囲には沢山の金髪がいたから)ものの見事に
スコーンと小気味いい音を立ててフリスビーが脳天にヒットした。
「?!」
「ごめんなさい、大丈夫だった?」
「……あぁ」
足元に落ちたフリスビーを拾ってやって走ってきた少年の顔を見上げた。みしりと固まる自分が
居たのである。その顔は今まで何度博士に見せられた事か。創造主の事もいくど説明された事か。
日本にいるはずの彼らがどうしてここにいる。そんなことは愚問だとコンピュータが囁いていた。
来たのだ。ついに、博士の拠点を発見して。
「ごめんね、ラッシュが取り損ねちゃって」
軽く首を傾げながらこちらを見やってくる少年。足元には赤い装甲をつけた犬がバウワウ、と此方
を見上げていた。
「い、いや、それよりお前、ロック…っていうんじゃないのか」
「そうだよ?僕、こっちに来てからいろんな人に声をかけらてびっくりしちゃった」
「そうか…ロックも大変だな。妹さんは来てないのか?」
そんなに僕の事ってみんなに知られてるの?!と、顔をしかめた少年は、フラッシュが己の名前
を巧妙に言い逃れた事に気付かなかった。フラッシュは顔を笑顔にしてみせて、なら俺と遊ぶか?
暇だったんだ。と言った。
「いいの?!丁度僕とラッシュだけで飽きてたところだったんだ!」
アメリカで見知らぬ人に遊ぼうと言われる危険性を知らないのか、少年はただ嬉しそうに笑う。
その笑顔が男には不思議でならなかったが、とりあえず仮想プログラムの一つを使って笑い返した。
少年と犬と男が遊び始めて二時間ほど経った頃合だっただろうか。ふと、聞きなれない音楽が公
園の真ん中あたりから響いてくるのに気がついた。ロックはどうしたの?とこちらに駆けて来る。
「なんだか面白そうなことをやってるみたいだ。行ってみるか?」
「え、なに?面白そうなこと?!」
行って見たい!とキラキラした眼で見上げてくるロックにプログラムを使って笑みを返して、んじゃ
あ行ってみるかぁと二人と一匹は連れ立ってその場を後にする。
心躍るリズム。深く性格に刻まれるそれに、楽しげに奏でられるディンガル、飛び跳ねるような笛
の音。わぁ、とロックは眼を輝かせて食い入るようにそれを見ている。
一人の人間が、道化師のような格好で楽しげにジャグリングをしながら踊っている。ほぅ、とフラッシ
ュは唸った。プログラムで制御されてロボットができるのは当たり前だが、普通の人間が六つをジャ
グしながらのダンスをしているのは、彼としては驚きであった。
と、眼が道化師とばっちり合ってしまい、こっちにこいよ、一緒にやろうぜ、と顔や顎で合図をされた。
さてどうすっかな、と思案しているところに、突如ロックが手を引っ張っていった。行こうよ!
「うぇっ?!」
「僕にもやらせて!」
どういうわけか二人と一匹してその奇妙な演技に参加するはめになった。これを他の兄弟に見ら
れていたら相当笑われるだろうな、と一人ごちながらフラッシュはとりあえず制御プログラムを組み
替え始める。
すると、ロックがあー!と叫ぶ。
「どうしたんだ?」
「だめだよ!プログラムなんて使っちゃ!」
「は?」
「人間と同じようなプログラムあげるから、一緒に楽しもうよ!」
無邪気にやたらすごいことを言われて一瞬ぽかんとしたが、首の後ろからコードをひっぱりだし
てこちらを見てくるロックに我に返り、口を開けて上顎にくっついているジョイントに接続した。
『仮想プログラムNo、01 Human 送信します』
『仮想プログラムNo,01 Human インストールしますか?』
『送信成功しました。接続を安全に切る事ができます』
『インストール完了しました』
はたから見ていると奇怪な光景なはずなのだが、フラッシュは少年を抱っこしているようにしか
見えないので特に害はない。そして、フラッシュは貰ったデータの膨大さに一瞬呆然としつつもそ
れに適応するべく計算式をくみたて始めた。
「一回再起動してくるわ」
「うん、待ってるね!」
再起動をしたあと、目の前にいた少年はワクワクしながらさっきの道化師のところに飛んでいく。
もちろん男のの手を掴んだままで。いきなり引っ張られたので半ばまろぶように前に進みでた男
は、道化師から渡されたジャグにつかう棍棒を二つわたされて、戸惑いながらお手玉のように投
げ上げた。二つができたのを見て、少年と道化師はにこにこと笑い、道化師がもう一本つけたした。
とたんに上手い事いかずにとりおとし、周囲はわっ、と笑いに包まれる。ロックが嬉しそうに僕も、
僕も!と男から棍棒をもらって二つからはじめるが、まずそれすら上手くいかない。
むぅ、と年相応の反応をみせる少年に道化師はくすくすと笑いながら四本をぽんぽんと投げ上げ
ている。と、その一瞬になんとか二本で持ちこたえていた男にむかって、道化師は一本を投げつ
けてきたのである。
「う…おっ?!」
取り落とさないように必死になりつつ、どうにか受け取った三本目を、なんとかジャグリングに組
み込ませることができた。
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