「帰ってくれ」
あんなに愛し合った後なのに、もう男はさっさと服を着て女に出て行くように言いつける。
なによそれ、あなたさっきまで今日はもう帰さないって言ってたじゃない!と女は金きり声
をあげて抗議するが、男の知った事ではない。
「帰れと言っている」
やや細められた眼から放たれる視線は、絶対零度もかくやという程。女はその視線に
戦慄を感じたのか、恐ろしさに手を震わせながら服をかき集めて部屋を飛び出していった。
裸で外を歩いたら猥褻物陳列罪で捕まるのに、あの女は大丈夫なのだろうか、とやや面倒
くさそうに考えながら男は部屋を後にする。
今日はまだ綺麗な方だったな、と一人ごちる。
「おかえり。今日も早かったな」
「あー、なんか興味がすぐに無くなった。わりとすぐにどうにかして切れたよ」
「お前の性格もどうにかならんもんかな」
すぐ上の兄を見やって弟は肩をすくめながらみんなが待っている、と一言告げてさっさと室
内へ引き返していく。やれやれ、冷たいねぇ、と男は弟の後を追った。
「よぅ早かったな、飯が丁度できたとこだぜ」
六男がギャルソンエプロンをはずしながら男に言う。おぉ、ナイスタイミング、とふざけて五男
が呟いているのを横目に、いつも自分が座っている席についた。博士もニコニコして「美味そう
じゃのフラッシュ」とのたまってくれる。
夕食は必ず皆そろって食べるのがワイリーの希望であった。人工臓器しかもたぬ彼らである
が、博士の望みをかなえるべくいつもE缶以外に軽く人間と同じものを口にするのだ。ヒートが
ニコニコしながら芋の煮っ転がしに箸を突き刺している。(フラッシュは和食が得意なのだ)
その生活にメタルは満足していた。兄弟と、父と、楽しく囲めるこの穏やかなる生活を、愛して
すらいたのである。
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